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tsuyoshi kodawari

湖田割剛

1991年生まれ。中学生のころ、巣鴨駅で見かけたオバちゃんのファッションに衝撃を受け、以降独自のファッションを貫くことを決意。TPOをわきまえず、どんなタイミングでも自分の着たい服を着ることで、世間のファッションに対する考え方に一石を投じるつもりらしいが、現在具体的な成果はあげられていない。

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私がファッションであり、ファッションが私である

都内某所、日も落ち世間も眠りにつく準備を始めた宵の口。ひと際目立つ格好でその姿を現したのは『フリーファッショニスト』を肩書に持つ湖田割剛氏である。指にはこれでもかと言わんばかりのリング。その存在感を主張するように軽く手を挙げながら、「やあ、そのシャツどこの?」と声をかけてきた彼に、この日は話を伺うことが出来た。

パグのイラストが描いてあった

――本日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございます。湖田割さんは「フリーファッショニスト」という肩書で活動しているそうですが、具体的に教えていただいてもよろしいでしょうか。

 

湖田割 ファッションのスペシャリスト、とでも思ってください。簡単に言えばファッションを追求する者です。少し難しい表現すれば、ファッションをファッションと捉えず、自分の一部として捉えることで、その本質を見つけることに尽力している人間ですね。つまり、私がファッションであり、ファッションが私であると。

――……ん? なんですか?

湖田割 聞いていなかったの? ファッションを自分の一部と捉えることで、ファッションそのものの本質を見つけようとしている人。私がファッションであり、ファッションが私であると。

――ちょっと難しいですね。

 

湖田割 まあ、そうでしょうね。そんな簡単なものではありませんよ。君のようなルーキーファッショニストには到底理解なんてできない。

――なるほど。湖田割さんがファッションを追求することになったきっかけはありますか?

 

湖田割 中学生の時でした。JR巣鴨駅に、ド派手な格好をしたオバちゃんがいましてね。黄色い蛍光色のロングスカートに、紫のTシャツ。そのTシャツの背中に、なぜか大きなパグのイラストが描いてあったんですよ。

――パグって、犬のパグですか?

 

湖田割 そうです。しかも、そのオバちゃん、身長が180センチ超えているくらい大きくて、目立っていたんですね。パグのTシャツ、そして目がチカチカしそうなくらい明るいスカート。その服を着て、堂々と歩く姿に衝撃を受けたんです。「これが本当のファッションなんだ」と。

――本当のファッションですか。

 

湖田割 要するに口先のものではなく、人の心に訴えかけるような何かがあったんです。180センチのオバちゃんが、あえてアホみたいに目立つ服を着ているわけですよ。当時の私の理解を超えていた。確かな衝撃が、体中をイナズマみたいに駆け巡ったんです。

 今は、時と場合に合わせて、服の選択がある程度限られている時代です。彼女はその枠の中にいませんでした。あの格好で、あんなに胸を張って歩ける。その時に、自分の中にあった「ファッション」という概念を疑いましたね。

 

服って人を変える力があるんです

 

 

――ファッションにおいて、一番大切にしていることはなんですか。

 

湖田割 とにかく自分の着たいもの、自分の選んだものを着るということ。これが意外と難しい。

――着たいものを着る、というだけならば簡単に思えますが。

湖田割 先ほども触れたんですが、現代社会において、ファッションとは常に制限されています。サラリーマンであれば、出社する際はスーツやビジネスカジュアル。結婚式やパーティでもそう。ある範囲の中で自分の服を選んでいるはずです。選択肢の中から自分の好みを見つけていく作業でしかない。“自分が本当に着たいものを着る”という行為は、現在ではかなり難しくなっています。いわゆる「TPO(※時(time)、所(place)、場合(occasion))」という言葉によって、ファッションの自由度は格段に低くなりましたね。

 

――TPO以外の点で言うと、「着たい服が自分には似合わない」と諦めてしまうこともあります。

湖田割 そもそも、似合う、似合わない、という言い方に違和感がありますね。服には人を変える力があるんです。服を着るだけで、明るくなったり、クールになったり。見た目に合わせて、内面も変わっていくものなんですよね。自然とその服に自分が寄っていくんです。

――なじんでくる、ということでしょうか。

 

湖田割 そうですね。私に言わせれば「自分には似合わない」という表現自体がナンセンスです。ファッションを通して、自分を変えるという気持ちの有無。それが大事なんです。

 

――なるほど。ところで、湖田割さんは常に着たい服を着るとおっしゃっていましたが、普段から今日のようなファッションをなさっているのですか?

湖田割 ええ、勿論。

――失礼ですが、お仕事は?

湖田割 仕事、というのはお金を稼ぐ手段という意味かな? 私が仕事をする上でもっとも気にしている条件はファッションに対して寛容であるかどうか。そういう意味では、私の仕事はオールオッケーなので。常に着たいものを着ています。

――どのようなお仕事なんですか。

湖田割 お金を使って、その金額以上のお金を得る感じかな。

 

――投資のような? もう少し具体的に教えていただけますか。

湖田割 シンプルに言えばパチスロです。日々、スロットを打って。あとは、親からの仕送りとか。

――あれ、無職のニート?

湖田割 いや、スロプロです。あとは、親の仕送りと。

――それって、つまり親御さんのスネをかじっていると?

湖田割 いや、仕送りはどちらかというと固定給ですよね。

――……は?

 

湖田割 やはりファッションにこだわっている以上、定職にはつけませんよね。

――ああ、そうですか。

 

湖田割 さて、もういいかな。明日打つ店の下見に行くから。

 

――はぁ……どうもありがとうございました。

 湖田割さんはそう言い残すと、更けた夜の街に燦然と輝くATMへとその体を滑り込ませていった。翌日の準備にも懸念のない、確かなプロの面影がそこにはあった。

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