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umounosuke shinguzi

​布団のスペシャリスト

寝具寺羽毛乃助

1985年生まれ。豆腐乃山湯葉太郎氏とは高校時代に出会い、コンビニからの帰り道で「布団のスペシャリスト」を襲名。以後、「よく眠ること」「すぐ忘れる」をモットーに生活。その後、大学に入学するが、寝坊のため授業に出席できない日が続き、3留する。卒業後は、アルバイトを転々としていたが、現在は三ツ木氏の家で熟睡中。

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寝るとすぐ忘れちゃう。

​でも、その短所が長所にもなりうる。

インタビュー場所に指定されたのは彼の家。しかし、表札には「寝具寺」とは書いていない。インターホンを押すと、寝癖だらけの男性が現れた。「どうも〜」と笑顔で迎えてくれたのは布団のスペシャリスト、寝具寺羽毛乃助さん。布団のスペシャリストとはどのような活動を行うのか、話を聞いた。

夢の中のほうが忙しい

 

―――本日はよろしくお願いいたします。まず、寝具寺さんのプロフィールの確認をさせてください。早稲田実業高校を卒業し、東京大学に入学。卒業後はハーバード大学に入学。そして主席で卒業され、現在は医療関係でお仕事をされていらっしゃると。すごい経歴ですね。

 

寝具寺 あ、はい、そうですね。夢の中ではそうです。

―――夢の中。

寝具寺 わりと、そういう設定の夢を見るんですよね。だから、大変ですよ。寝ると、患者さんとかナースににすぐ呼ばれるから、忙しくて(笑)夢の中のほうが忙しいんじゃないですかね(笑)

 

―――実際のお仕事は何をされているんですか?

寝具寺 特に何も。しいて言えば寝てますね。寝るのが仕事、みたいなところはあります。夢の中では結構働いているので、起きると疲れちゃうんですよね。一仕事終えたな~と思いながら目覚めます。

 

―――では、生活費はどうしているんですか?

 

寝具寺 彼女が払ってくれてます。「仕事が終わって、帰ってきたときに寝顔を見ると癒される」とか言われて、そこからの流れでずっと、彼女のおうちでお世話になってる形です。彼女はバリバリのキャリアウーマンで、基本的には家にいないので、なんでしょう。番犬みたいな扱いですかね。僕も出かけたりしないし、寝てるだけなので、「お金かからないからいいわ~」っていつも言われます。人一人養うのも大変だと思うんですけどね。許されてるし、彼女の癒しになっているなら、いっか、と思って(笑)名前が三ツ木益代(みつぎますよ)っていうんですけど、名前の通りの性格って感じですよね(笑)あと僕、忘れっぽいっていうか、寝るとすぐ忘れちゃうんです。だから、「会社の機密情報を含んだ愚痴とか言えてすっきりするの!」とかも言ってましたね。短所は長所になりうる、ってこのことですね!

―――はあ、たいそうポジティブなんですね。よく寝てるからなのかな。

 

撮影は勘弁してください

 

―――さて、寝具寺羽毛之助さん、「布団のスペシャリスト」ということですが、どんな活動をされているんですか?

寝具寺 そんなこと言いましたっけ?

 

―――え?

 

寝具寺 「布団のスペシャリスト」なんて言いましたっけ? 今もなぜインタビューされているのかも、よくわからないんですけど……。

―――メールでご連絡させていただきました。豆腐乃山湯葉太郎さんから「布団のスペシャリスト」として活躍されているとお聞きし、本日、インタビューと誌面掲載用のお写真も撮影したいと。承諾のお返事をいただきまして、今日ここに参りました。

寝具寺 そんなメールしましたっけ? ごめんなさい、すぐ忘れちゃうので。インタビューは問題ないですけど、こんな感じで寝起きなので、撮影は勘弁してください。

 

―――えっ、それは困ります。寝具寺羽毛乃介さんの写真は巻頭トップに掲載させていただきますので、写真がないと……。後日の撮影でもよろしいのですが、いかがでしょうか。

寝具寺 あーそれも多分、忘れちゃうので、写真はなしで。すみません。フリー素材とかでどうにか対応できませんかね?

 

―――……わかりました。では、編集部のほうで対応させていただきます。

 

 

セクハラはよくない。

 

―――ちなみに、豆腐乃山湯葉太郎さんとのご関係は?

寝具寺 高校の時の友達です。ファミレスでよく集まってたんですけど、あいつが「豆腐食いてえ!」ってずっと言ってて、帰り道にコンビニで豆腐だけ買ってスプーンで食べてたんですよ。それが仲間内でウケて、「豆腐のスペシャリストだ」ってからかってました。これはたぶん夢じゃなくて現実の話だと思います。なんで僕が「布団のスペシャリスト」なのかはちょっと忘れちゃったんですけど……。

―――あ、もしかして、なんですけど、仲間内で「スペシャリスト」を名乗るのがブームになって、寝具寺羽毛乃介さんは「よく寝るから、布団のスペシャリスト」みたいな流れではないでしょうか?

 

寝具寺 あーーーー!!! そうだったかもしれません。頭イイですね!! ついでに彼女の会社の機密情報も思い出したんで、ちょっと警察行ってきます。

―――えっ、どうかされたんですか?

 

寝具寺 彼女、めっちゃセクハラされてるんですよ。音声データも彼女のパソコンに入ってるって言われた気がするので、残っていれば提出します。あと、会社が安全データの改ざんしてるらしいんですよね。彼女が見つけたらしくて、それを言うかどうか悩んでました。これは具体的なデータ持ってないんですけど、セクハラされたときの音声にそのことも入ってるって言ってて、「両方の証拠取れた!」って喜んでたので、大丈夫じゃないかな。ちょっと警察行きますけど、どうします?

―――えっと、では、インタビューの最後に、何か一言いただければ。

 

寝具寺 そうですね。セクハラは絶対によくないですよね。僕も彼女から聞いたときは相当ショックでした。女性に何かいうときは、自分の彼女、奥さん、娘と思って話しかけたほうがいいです。よく言うのは、「娘が見ていると思え」ってやつですけどね。自分自身も気をつけないといけないなとは思ってます。

 あと、データの改ざんもよくないですね。近頃増えてますしね。ああいうのって、結局現場で納期が間に合わないからって工程をスキップしたり、検査したことにしたりして、それが日常になってしまうみたいですね。納期優先するのもいいですけど、品質管理は徹底してほしいですよね。それが、日常の安全につながることなので。

 では、彼女を救うために警察行ってきます。忘れないうちに。

―――急に真面目な話になったので驚きました。本日はありがとうございました!

 この日、編集部を残し、寝具寺氏は警察へと向かった。後日、ニュースでは某企業で安全装置のデータ改ざんと社内で日常化していたセクハラについて取り上げられていた。連日報道は続き、管理職及び代表者は退職。新たに就任した代表取締役社長は三ツ木という女性社員だった。

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